換気

曖昧さ回避 この項目では、建築や工学における換気について説明しています。
  • 医学や生理学における換気については「換気 (医学)」をご覧ください。
  • 機械による換気については「機械換気」をご覧ください。
室内用換気扇
取り付けたもの
換気ファンのフィルタ
室内に充満するたばこの副流煙
クリーンルーム

換気(かんき)は、特定の空間の空気環境を維持、または改善するために外気を取り入れて内部の空気を排出する(入れ換える)こと。

換気の方式

自然喚起と機械換気

換気の方式は自然換気機械換気に大別される[1][2]

  • 自然換気
    • 自然の風による圧力差または建物の内外の温度差による空気密度の差を利用した換気方法を自然換気という[1]。温度差換気と風力換気がある。
      • 温度差換気[3] - 空気は暖められると軽くなって上昇する煙突効果を利用するもの[3]。温度差による換気力を利用する場合、単なる開口部の組み合わせだけでは換気力は小さく、外部の風の影響を大きく受ける[1]。そのため排気筒を設けることもあるが、その場合には給気口を低く、排気口を高くすることで温度差を生じやすくする[1]
      • 風力換気[3] - 建物(窓)に生じる風圧を通風の起動力とするもの[3]。建築物の中には風が越屋根や風見塔を通り抜ける際に生ずる圧力差(ベンチュリー効果)によって、室内の空気の排出と外気の取り込みを行っているものもある[3]。風圧は建物の外表面だけでなく、建物の近傍の空間にも圧力分布を生じるため、排気筒の高さが不十分な場合には向流を起こすことがある[1]
    • 建築物に風道を作り屋外からの風の取り込みや屋外と屋内の温度差など、自然エネルギーを利用して計画的に換気を行うことを計画自然換気(パッシブ換気)という[4]
    • 自然換気は季節や気候による変動、設計条件等の影響を受けやすい[1]
  • 機械換気
    • 機械の力(空調換気設備)による強制的な換気方法を機械換気という[2][5]強制換気動力換気とも呼ばれる[6]
    • 機械換気を補助するために、窓や扉を約15㎝程度開けて自然換気を行うことも換気には有効とされている[5]

機械換気と自然換気を併用するハイブリッド換気システムもあり、建築物によっては季節や時間帯などにより機械換気と自然換気を切り替えたり組み合わせたりすることでエネルギー消費を抑えるシステムが導入されている[3]

全般換気と局所換気

全般換気(希釈換気)
室内全体の空気を入れ替えるもの[7]
局所換気
排出源の近傍にフードやシュラウドなどを設け、汚染された空気を拡散する前に排出するもの[7]

機械換気

サーキュレータ。送風機の一種

機械換気の種類

機械換気はその方式によって第一種から第三種に分けられ[2]、さらに第三種は甲種と乙種に分けられる[8]

  • 第一種換気方法 - 給気と排気の双方を機械装置で行う方法[4][8]。給気には有圧換気扇等、排気には屋上換気扇等を用いる[8]。常に一定量の換気を行うことができるが、高コストである[4]
  • 第二種換気方法 - 給気を屋上換気扇等の機械装置、排気を窓ガラリ等の自然換気装置で行う方法[4][8]。室内が正圧となり他室からの汚染空気の流入を防ぐことができるため、クリーンルーム、手術室、無菌室などで用いられる[4]
  • 第三種換気方法 - 給気を自然給気口、排気を屋上換気扇等の機械装置で行う方法[4][8]。これを甲種とし、給気を自然給気口から直接に取らずに廊下等を通して間接的に導入する場合を乙種として分けることもある[8]。室内の臭気や水蒸気を強制的に排出できるため、トイレや浴室等で用いられる[4]。ただし外気温の影響を受ける[4]

機械換気装置の制御

  • 換気扇の人感センサー制御 - 換気扇を人感センサーで自動的に運転・停止するシステム[4]
  • 熱源機器との連動制御 - ボイラーなどの熱源機器と換気設備の運転・停止を連動して制御するシステム[4]
  • 置換換気(空調)システム - 室内温度より低い温度の空気を居住域の低い位置から低風速で供給し、人やOA機器等からの発熱で汚れた空気を上昇させて排出するシステム[4]

機械換気装置のメンテナンス

換気ファンのメンテナンス等が必要となる。フィルタにホコリなどが溜まると給排気の抵抗となり効率が低下するため、定期的に外して清掃しなければならない。同様の汚れは羽にも付着、堆積する。こちらも抵抗が増していき、送風量の低下や異音の元となるため、定期的な清掃が求められる[9]

換気量

人間の活動に伴う呼気や臭気・粉じん等の種々の汚染質発生に対する基本必要換気量は、総合的指標である二酸化炭素の設計基準濃度(1000ppm)と人間の呼吸に伴う二酸化炭素の発生量から算出される[10]

CO2は、ヒトの呼気中に4%(40,000ppm)含まれており、ヒトが吐き出す汚染物質の中で最も多い[11]

CO2濃度は極わずかな濃度でも人体に影響を与えるとわかってきている[12]

CO2以外のbioeffluents(いわゆる口臭などの原因物質)、シックハウス原因物質の影響も指摘されるが、これらを除去してCO2のみを加えた実験でも1000ppmの低濃度で認知機能への影響が見られるとする研究もある[13]

CO2濃度 人体への影響
350ppm 1980年代の大気濃度
400ppm 2020年代の大気濃度[14]
700ppm
800ppm 空気の淀みを感じる[15]
850ppm シックビルディング症状(SBS)の増加
1000ppm 軽い眠気を感じる[15]認知能力低下、喘息の憎悪 建築物衛生法の定める換気濃度[16]
室内外濃度差700ppm 2016年に空気調和・衛生工学会が提唱した換気濃度[12]
1500ppm 眠気や倦怠感を感じる[17]
2500ppm 健康に悪影響が生じる[15]
5000ppm 滞在8時間が許容限度[15]

一人あたりの必要換気量の参考値は、30 m3/(h・人)とされているが、これは建築物衛生法の衛生管理基準値(CO2濃度:1000ppm以下)を満たすため、呼気のCO2濃度(0.02[m3/(h・人)])から算出した値であり、以下の式で計算できる。 Q=M/(Ci-Co)=呼気のCO2濃度/((室内濃度-外気濃度)×10^-6[m3/ m3]) =0.02[m3/(h・人)]/((1000-350)×10^-6[m3/ m3])≒30 m3/(h・人)[10] ※外気のCO2濃度は350ppmと仮定して計算しているため、大気中のCO2濃度の値が400ppmを超えている現状では、必要換気量が異なる。

なお感染症対策において、リスク要因の一つである「換気の悪い密閉空間」とは、一般的な建築物の空気環境の基準を満たしていないことを指すものと考えられる。その意味では、ビル管理法の基準に適合させるために必要とされる換気量(30 m3/(h・人)=CO2濃度:1000ppm以下)を満たせば、「換気の悪い密閉空間」には当てはまらないと考えられる[18]

推奨量

アメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)による推奨規格は以下の通り[19]

居住者別の換気率[19] (ANSI/ASHRAE Standard 62.1-2004)
ヤード・ポンド法 SI単位 分類
0 cfm/person 0 L/s/person 主に居住者ではなく建築要素に関連している空間 保管庫、倉庫
5 cfm/person 2.5 L/s/person 成人が主に低活発な活動を行う空間 オフィスエリア
7.5 cfm/person 3.5 L/s/person より活発な活動を行うが、激しい活動や多量の汚染物質を排出する活動ではない 小売エリア、ロビー
10 cfm/person 5 L/s/person より活発な活動を行うが運動はしていない、もしくはより多量の汚染物質を排出する活動に従事 学校、教室
20 cfm/person 10 L/s/person 居住者が運動している、もしくは多量の汚染物質を排出する ダンスルーム、エクササイズルーム


面積別の換気率[19] (ANSI/ASHRAE Standard 62.1-2004)
ヤード・ポンド法 SI単位 分類
0.06 cfm/ft2 0.30 L/s/m2 空気汚染が通常のスペース、またはオフィス環境に類似するスペース 会議室、ロビー
0.12 cfm/ft2 0.60 L/s/m2 空気汚染がオフィス環境よりも著しく高いスペース 教室、美術館
0.18 cfm/ft2 0.90 L/s/m2 空間汚染が前のカテゴリーよりもさらに高いスペース 実験室、美術教室
0.30 cfm/ft2 1.5 L/s/m2 汚染物質が放出される、スポーツまたは娯楽の特定のスペース スポーツ、エンターテイメント
0.48 cfm/ft2 2.4 L/s/m2 化学物質濃度が高い屋内遊泳のためのエリア 屋内スイミングエリア

換気のタイミング

汚染源が建物内にある場合、汚染物質の濃度は上昇することはあっても減少することはないため、状況が許すのであれば常時換気(24時間換気)が最も効果的である[20]。 屋外の大気汚染や気温などにより常時換気が難しい場合は定期的に換気を行う形になるが、その目安としてCO2などの空気質を測定するセンサーが用いられることがある[21][22]

  • 市販されているCO2モニター
    市販されているCO2モニター

換気の影響と対策

影響

冷暖房コストの増加

折角空調した空気を捨てて外の空気を取り入れるため、冷暖房のコストが増加する[23]

汚染された外気の給気

野焼き

換気は室内の空気を排出し、外気を取り入れる行為である。そのため、外気が汚染されている状態で換気を行うことは、その汚染された空気を室内に取り入れてしまうことを意味する。 新型コロナウイルス感染症への有効な対策として換気が挙げられるが、野焼きのために煙で外気が汚染され、換気の妨げる問題が発生している[24] [25] [26][27]

対策

室内換気量を増やさない空気質改善

  • CO2除去空調 換気なしでCO2を回収、除去する。既に東南アジアを中心に使用実績もある[28]
  • 空気清浄機の使用 換気を行わずに室内の空気質を改善する。屋外の汚染物質も取り除ける。
  • シックハウス原因物質等汚染物質を出さない対策建材を用いる[29]  塗装で原因物質を封じ込める方法も有る[30]
  • 陽圧換気 屋根裏や床下の汚染物質が室内に入ってこないようにする[31]。屋根裏等を排気し負圧にすることでも防げる[32]
  • 床下換気 床下など見えない所にいる汚染物質を追い出し、カビの発生などを防ぐ[33]

換気量の適正化

CO2濃度を監視し、必要十分な換気量に抑える[23]

熱交換換気

換気しつつ熱の流出を最小限に抑える。熱交換器にカビや埃が溜まることがあるので注意[34]

法的規制

ギャラリー

  • 車内換気
    車内換気
  • 室内換気のコントロールパネル
    室内換気のコントロールパネル
  • 地下鉄の換気(モスクワ)
    地下鉄の換気(モスクワ)

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c d e f “3.可燃性天然ガスの滞留防止(換気・ガス漏れ警報設備)について”. 環境省. 2023年7月25日閲覧。
  2. ^ a b c “実験室の換気と給排気”. AS ONE. 2023年7月25日閲覧。
  3. ^ a b c d e f “5.自然換気・通風~ 自然の風を有効に活用する”. 大阪府. 2023年7月25日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k “2-3 機械換気設備”. 福島県. 2023年7月25日閲覧。
  5. ^ a b “医療機関における換気の評価と改善”. 日本環境感染学会. 2023年7月25日閲覧。
  6. ^ “7-4 機機械換気”. モノタロウ. 2022年8月15日閲覧。
  7. ^ a b “7-6 局所換気と全般換気”. モノタロウ. 2022年8月16日閲覧。
  8. ^ a b c d e f “sanwa roof fan & Ventilator”. 三和式ベンチレーター. 2023年7月25日閲覧。
  9. ^ 換気扇のお手入れ|三菱電機 空調・換気・衛生
  10. ^ a b “5.1 完全混合濃度に基づく基本必要換気量”. tkkankyo.eng.niigata-u.ac.jp. 2022年8月16日閲覧。
  11. ^ “吐く息で健康をチェックする(仮訳) | August 2014 | Highlighting Japan”. www.gov-online.go.jp. 2022年8月17日閲覧。
  12. ^ a b “室内空気質のための必要換気量 公益社団法人 空気調和・衛生工学会 換気設備委員会・室内空気質小委員会”. 厚生労働省. 2016年10月31日閲覧。
  13. ^ 東賢一「室内環境中における二酸化炭素の吸入曝露によるヒトへの影響」『室内環境』第21巻第2号、室内環境学会、2018年、113-120頁、CRID 1390282763026961664、doi:10.7879/siej.21.113、ISSN 18820395。 
  14. ^ “世界のCO2濃度危険水準の400ppmにWMOが2015年に過去最高と発表”. Science Portal - 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」. 2022年8月17日閲覧。
  15. ^ a b c d “室内CO2 濃度を換気の指標として利用する研究 | COVID-19 AI・シミュレーションプロジェクト” (2020年12月22日). 2022年8月17日閲覧。
  16. ^ “建築物環境衛生管理基準について|厚生労働省”. www.mhlw.go.jp. 2022年8月17日閲覧。
  17. ^ “必要換気量とは?二酸化炭素濃度を指標としたコロナ対策 | 株式会社テラモト”. 2022年8月17日閲覧。
  18. ^ 「商業施設等における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について」 (PDF) の「P.4」(厚生労働省2020年3月30日)、および「「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法」(厚生労働省2020年4月3日) (PDF) を参照
  19. ^ a b c Stanke D. 2006. "Explaining Science Behind Standard 62.1-2004". ASHRAE IAQ Applications, V7, Summer 2006. “Archived copy”. 2014年7月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月12日閲覧。 accessed 11 June 2014
  20. ^ 常時換気で空気感染防げ コロナ対策 煙で実験 室内CO2濃度も目安 | 山陰中央新報デジタル
  21. ^ 横浜の市立学校 感染症対策として「空気の見える化」 換気へCO2測定モニターを設置:東京新聞 TOKYO Web
  22. ^ 教室内のCO2、センサーで「見える化」…目安超えれば換気促す音 : 読売新聞
  23. ^ a b “換気量を削減して空調負荷を大幅低減!”. 大阪府立環境農林水産総合研究所. 2022年8月15日閲覧。
  24. ^ 野焼きは法律で禁止されています | 那珂市公式ホームページ
  25. ^ つくば市
  26. ^ 世界最悪、インドの大気汚染 秋・冬に悪化 コロナ感染加速や重症化の恐れ | 毎日新聞
  27. ^ 新型コロナ禍で「野焼き」やめて 換気必要なのに「煙が家に入ってくる」
  28. ^ “CO2除去空調システム | チャレンジ・ゼロ”. www.challenge-zero.jp. 2024年2月5日閲覧。
  29. ^ “床暖房のシックハウス症候群対策に有効な接着剤「オートンアドハー8500」”. ベストなパーツ|部材の選び方が分かるベストパーツ公式ブログ. 2022年8月15日閲覧。
  30. ^ 永崎靖志「ラドンガス湧出抑制方法について」『資源と素材』第112巻第6号、資源・素材学会、1996年、360-364頁、CRID 1390001206016327296、doi:10.2473/shigentosozai.112.360、ISSN 09161740。 
  31. ^ “4.屋内ラドンの低減化対策”. www.niph.go.jp. 国立保健医療科学院. 2022年8月15日閲覧。
  32. ^ “法改正によるシックハウス関係実務におけるQ&A”. 2022年8月15日閲覧。
  33. ^ 日経クロステック(xTECH). “住宅のカビが原因のシックハウス症候群が増加”. 日経クロステック(xTECH). 2022年8月15日閲覧。
  34. ^ “全熱交換型換気システムの分解清掃とダクト清掃(ミサワホーム ロスナイ) | グリーンサービス”. 神奈川〜東京のハウスクリーニング専門店グリーンサービス (2016年1月24日). 2022年8月15日閲覧。

関連項目

ウィキメディア・コモンズには、換気に関連するカテゴリがあります。
新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)
SARSコロナウイルス2
疾患と症状
変異株
感染
治療
検査
ワクチン
一覧
治療薬
抗ウイルス薬
抗体カクテル
(モノクローナル抗体)
治療法
研究
感染拡大
影響(コロナ禍
社会
文化
経済
社会の対応
感染対策
ワクチン接種
感染予防
有事発令
都市および
国境封鎖
感染者管理
その他
経済政策
組織
その他関連項目
カテゴリ カテゴリ
公害
典型七公害
騒音
規制法
その他
水質汚濁
規制法
大気汚染
規制法
その他
地盤沈下
規制法
土壌汚染
規制法
振動
規制法
悪臭
規制法
公害事件
四大公害事件
その他公害事件
公害に関する事件
汚染物質
重金属
ガス、粉塵
毒劇物
その他
行政組織
法律
関連概念
カテゴリ カテゴリ
典拠管理データベース ウィキデータを編集
国立図書館
  • チェコ
その他
  • 公文書館(アメリカ)