ボックス=ミュラー法

ボックス=ミュラー法のイメージ。単位正方形(u1, u2)内部の色の付いた点は円状に散布され、2次元正規分布となる。上と右の余白に点で示される曲線は変換後の確率密度関数である。図は有限の区間でのプロットであるが、実際には変換後の分布は無限に広がる。the SVG fileでは、カーソルを合わせた点と関係する点をハイライトする。

ボックス=ミュラー法(ボックス=ミュラーほう、: Box–Muller's method)とは、一様分布に従う確率変数から標準正規分布に従う確率変数を生成させる手法[1]。計算機シミュレーションにおいて、正規分布に従う擬似乱数の発生に応用される。統計学者ジョージ・ボックス(英語版)とマーヴィン・マラー(ミュラー)によって考案された[2]

概要

確率変数 X 及び Y が互いに独立で、ともに(0, 1)上での一様分布に従うものとする。このとき、

Z 1 = 2 log X cos 2 π Y , Z 2 = 2 log X sin 2 π Y {\displaystyle {\begin{aligned}Z_{1}&={\sqrt {-2\log {X}}}\cos {2\pi Y},\\Z_{2}&={\sqrt {-2\log {X}}}\sin {2\pi Y}\end{aligned}}}

で定義される Z1, Z2 は、平均 0、分散 1 の標準正規分布N(0,1)に従う互いに独立な確率変数となる。一様分布に従う X 及び Y から正規分布に従う Z1, Z2 を与えるこの変換をボックス=ミュラー変換という。また、この正規分布に従う確率変数を生成させる方法のことをボックス=ミュラー法という。ボックス=ミュラー法によって、比較的生成が容易な一様分布に従う乱数から、応用上、重要な正規分布に従う乱数を生成させることができる。

発想

2次元の標準正規分布に従う (Z1, Z2) において、2変数が互いに独立であれば、同時確率密度関数

f ( z 1 , z 2 ) = 1 2 π exp ( z 1 2 + z 2 2 2 ) {\displaystyle f(z_{1},z_{2})={\frac {1}{2\pi }}\exp \left(-{\frac {z_{1}^{2}+z_{2}^{2}}{2}}\right)}

は、円周上で定数値を与えることから、偏角

Θ = arctan Z 2 Z 1 {\displaystyle \Theta =\arctan {\frac {Z_{2}}{Z_{1}}}}

は (0, 2π) 上で、一様分布をなす。一方、2次元ベクトル (Z1, Z2) の大きさの2乗

R 2 = Z 1 2 + Z 2 2 {\displaystyle R^{2}=Z_{1}^{2}+Z_{2}^{2}}

は自由度2のカイ二乗分布に従う。ここで、カイ二乗分布の性質から exp(−R2/2) は、(0, 1) 上の一様分布となる。

これらのことから、逆に (0, 1) 上で一様分布する2つの独立な確率変数 X, Y により、

Θ = 2 π Y , R 2 = 2 log X {\displaystyle {\begin{aligned}\Theta &=2\pi Y,\\R^{2}&=-2\log {X}\end{aligned}}}

とすれば、

Z 1 = R cos Θ , Z 2 = R sin Θ {\displaystyle {\begin{aligned}Z_{1}&=R\cos {\Theta },\\Z_{2}&=R\sin {\Theta }\end{aligned}}}

で定義される確率変数 Z1, Z2 は標準正規分布 N(0, 1) に従うこととなる。

証明

ボックス=ミュラー変換が標準正規分布を与えることは、特性関数を調べることで確認できる[1]。実際、Z1 については、その特性関数は、

Φ Z 1 ( ξ ) = e i ξ Z 1 = 0 1 0 1 exp ( i ξ 2 log x cos 2 π y ) d x d y {\displaystyle \Phi _{Z_{1}}(\xi )=\langle e^{i\xi Z_{1}}\rangle =\int _{0}^{1}\int _{0}^{1}\exp(i\xi {\sqrt {-2\log {x}}}\cos {2\pi y})dxdy}

であり、変数変換

x = exp ( r 2 2 ) , y = θ 2 π , d x d y = | J | d r d θ = r 2 π exp ( r 2 2 ) d r d θ {\displaystyle x=\exp \left(-{\frac {r^{2}}{2}}\right),\,y={\frac {\theta }{2\pi }},\,dxdy=|J|drd\theta ={\frac {r}{2\pi }}\exp \left(-{\frac {r^{2}}{2}}\right)drd\theta }

によって、

Φ Z 1 ( ξ ) = 1 2 π 0 0 2 π exp ( i ξ r cos θ r 2 2 ) r d r d θ {\displaystyle \Phi _{Z_{1}}(\xi )={\frac {1}{2\pi }}\int _{0}^{\infty }\int _{0}^{2\pi }\exp \left(i\xi r\cos {\theta }-{\frac {r^{2}}{2}}\right)rdrd\theta }

となるが、さらに変数変換

z = r cos θ , w = r sin θ , d z d w = | J | d r d θ = r d r d θ {\displaystyle z=r\cos {\theta },\,w=r\sin {\theta },\,dzdw=|J|drd\theta =rdrd\theta }

を行えば、

Φ Z 1 ( ξ ) = 1 2 π exp ( i ξ z z 2 + w 2 2 ) d z d w = exp ( ξ 2 2 ) {\displaystyle {\begin{aligned}\Phi _{Z_{1}}(\xi )&={\frac {1}{2\pi }}\int _{-\infty }^{\infty }\int _{-\infty }^{\infty }\exp \left(i\xi z-{\frac {z^{2}+w^{2}}{2}}\right)dzdw\\&=\exp \left(-{\frac {\xi ^{2}}{2}}\right)\end{aligned}}}

を得る。これは、標準正規分布 N(0, 1) の特性関数にほかならない。

脚注 

  1. ^ a b 添田、太田、大松(2000)、第5章
  2. ^ G.E.P. Box and M.E. Muller, Annals Math. Stat.(1958).

参考文献

原論文
  • G.E.P. Box; M.E. Muller (1958), “A note on the generation of random normal deviates”, Annals Math. Stat. 29: 610-611, doi:10.1214/aoms/1177706645, http://projecteuclid.org/DPubS?service=UI&version=1.0&verb=Display&handle=euclid.aoms/1177706645 
参考書籍
  • 四辻哲章『計算機シミュレーションのための確率分布乱数生成法』プレアデス出版、2010年。ISBN 978-4903814353。 
  • 添田喬、太田光雄、大松繁『数理統計の基礎と応用』日新出版、2000年。ISBN 978-4817301079。 

関連項目

離散単変量で
有限台
離散単変量で
無限台
  • ベータ負二項(英語版)
  • ボレル(英語版)
  • コンウェイ–マクスウェル–ポワソン(英語版)
  • 離散位相型(英語版)
  • ドラポルト(英語版)
  • 拡張負二項(英語版)
  • ガウス–クズミン
  • 幾何
  • 対数(英語版)
  • 負の二項
  • 放物フラクタル(英語版)
  • ポワソン
  • スケラム(英語版)
  • ユール–サイモン(英語版)
  • ゼータ(英語版)
連続単変量で
有界区間に台を持つ
  • 逆正弦(英語版)
  • ARGUS(英語版)
  • バルディング–ニコルス(英語版)
  • ベイツ(英語版)
  • ベータ
  • beta rectangular(英語版)
  • アーウィン–ホール(英語版)
  • クマラスワミー(英語版)
  • ロジット-正規(英語版)
  • 非中心ベータ(英語版)
  • raised cosine(英語版)
  • reciprocal(英語版)
  • 三角
  • U-quadratic(英語版)
  • 一様
  • ウィグナー半円
連続単変量で
半無限区間に台を持つ
  • ベニーニ(英語版)
  • ベンクタンダー第一種(英語版)
  • ベンクタンダー第二種(英語版)
  • 第2種ベータ
  • Burr(英語版)
  • カイ二乗
  • カイ(英語版)
  • Dagum(英語版)
  • デービス(英語版)
  • 指数-対数(英語版)
  • アーラン
  • 指数
  • F
  • folded normal(英語版)
  • Flory–Schulz(英語版)
  • フレシェ
  • ガンマ
  • gamma/Gompertz(英語版)
  • 一般逆ガウス(英語版)
  • Gompertz(英語版)
  • half-logistic(英語版)
  • half-normal(英語版)
  • Hotelling's T-squared(英語版)
  • 超アーラン(英語版)
  • 超指数(英語版)
  • hypoexponential(英語版)
  • 逆カイ二乗(英語版)
    • scaled inverse chi-squared(英語版)
  • 逆ガウス
  • 逆ガンマ
  • コルモゴロフ
  • レヴィ
  • 対数コーシー
  • 対数ラプラス(英語版)
  • 対数ロジスティック(英語版)
  • 対数正規
  • ロマックス(英語版)
  • 行列指数(英語版)
  • マクスウェル–ボルツマン
  • マクスウェル–ユットナー(英語版)
  • ミッタク-レフラー(英語版)
  • 仲上(英語版)
  • 非心カイ二乗
  • パレート
  • 位相型(英語版)
  • poly-Weibull(英語版)
  • レイリー
  • relativistic Breit–Wigner(英語版)
  • ライス(英語版)
  • shifted Gompertz(英語版)
  • 切断正規
  • タイプ2ガンベル(英語版)
  • ワイブル
    • 離散ワイブル(英語版)
  • ウィルクスのラムダ(英語版)
連続単変量で
実数直線全体に台を持つ
連続単変量で
タイプの変わる台を持つ
  • 一般極値
  • 一般パレート(英語版)
  • マルチェンコ–パストゥール(英語版)
  • q-指数(英語版)
  • q-ガウス
  • q-ワイブル(英語版)
  • shifted log-logistic(英語版)
  • トゥーキーのラムダ(英語版)
混連続-離散単変量
  • rectified Gaussian(英語版)
多変量 (結合)
【離散】
エウェンズ(英語版)
多項
ディリクレ多項(英語版)
負多項(英語版)
【連続】
ディリクレ
一般ディリクレ(英語版)
多変量正規
多変量安定(英語版)
多変量 t(英語版)
正規逆ガンマ(英語版)
正規ガンマ(英語版)
行列値
逆行列ガンマ(英語版)
逆ウィッシャート(英語版)
行列正規(英語版)
行列 t(英語版)
行列ガンマ(英語版)
正規逆ウィッシャート(英語版)
正規ウィッシャート(英語版)
ウィッシャート
方向
【単変量 (円周) 方向
円周一様(英語版)
単変数フォン・ミーゼス
wrapped 正規(英語版)
wrapped コーシー(英語版)
wrapped 指数(英語版)
wrapped 非対称ラプラス(英語版)
wrapped レヴィ(英語版)
【二変量 (球面)】
ケント(英語版)
【二変量 (トロイダル)】
二変数フォン・ミーゼス(英語版)
【多変量】
フォン・ミーゼス–フィッシャー(英語版)
ビンガム(英語版)
退化特異
  • 円周(英語版)
  • 混合ポワソン(英語版)
  • 楕円(英語版)
  • 指数
  • 自然指数(英語版)
  • 位置尺度(英語版)
  • 最大エントロピー(英語版)
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